株式投資の考え方
最終更新:2017年7月4日
何もしなくても、お金が自動で手に入る。そんなうまい話はありません。世の中はギブアンドテイクです。お金が欲しいならば対価を支払わなくてはならない。
株式投資において、私たち投資家は、企業の損失を肩代わりしてあげます。その代り、株で一発当ててお金を儲けることができるかもしれません。
そのため、言葉の定義上、「損をしない株式投資」はありえません。だって、交換にならないから。
この記事では、株式投資の考え方の概要を説明しつつ、統計学・データ分析との接点について説明します。
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目次
- 株式投資とは何か
- 株価はどのようにして決まるのか
- テクニカル分析とファンダメンタルズ分析
- 効率的市場仮説と予測不可能性
- 市場のゆがみと予測可能性
- データサイエンスと株式投資
1.株式投資とは何か
株式投資において、企業と投資家は以下のような交換をします。
企業 :損をしたら、その分を投資家に押し付けて、被害を最小限に食い止める
↓↑
投資家:企業が儲けたら、そのおこぼれにあずかる
企業が株式を発行して、投資家に買ってもらうことができれば、企業は「お金を手に入れる」ことができます。そのお金を使って工場を建てたり、材料を買ったりします。
会社が倒産したときも、借金が少ない状態で(なぜならば損失の一部は投資家に押し付けるから!)リタイアすることができます。会社が倒産したからといって、投資家にお金を返す義務はないんですね。
企業が新しい仕事にチャレンジする際、株式というシステムはとても便利な「資金調達の方法」となるわけです。
投資家の側としても、企業がうまいこと儲けてくれれば、自分たちも儲けることができます。
企業が順調に儲けを増やしていくと、株式の値段が上がります。
買った時よりも値段が上がっていれば、売ると投資家の儲けになりますね。この儲けをキャピタルゲインと呼びます。
また配当といって「株式を持っているだけで、企業からお金がもらえる」という仕組みもあります。この儲けをインカムゲインと呼ぶこともあります。
こういったキャピタルゲインや配当金を狙って株式を購入するのが株式投資です。
なぜか、巷の株式投資の入門書には、前提条件である「企業は、損失を投資家に押し付けられる」という企業側のメリットを記載していないことが多々ありますが、この「企業と投資家の交換条件」についてはぜひ理解をしておいてください。
ゲームにはルールがあるし、プレイヤーはそのルールを知っておかなくてはなりません。
2.株価はどのようにして決まるのか
株を買いたい人がたくさんいれば、株価が上がります。
逆に、株を売りたい人がたくさんいれば、株価は下がります。
売買情報を見るには「板」と呼ばれるものを参照します。
板では例えば、以下のように買いたい人の「買いたい金額」と売りたい人の「売りたい金額」が載っています。
売られている数 株の金額 買いたい数
10個 110円
5個 100円
90円 10個
80円 20個
このタイミングで「買いたい人」が増えたとしましょう。
この人は絶対に株を5株買うと決めていたとします。
すると、その人は、きっと「売られている最も安い金額」で株を購入することでしょう。なので、株を100円で購入します。
売れていなかった株が「買いたい人が増えた」ことによって100円で売られました。
さらに「株を買いたい人」が増えたとします。この人も絶対5株買うと心に決めています。
すると、最も安かった100円の株がすでに売り切れているので、110円の株を買うことになります。
2番目の人はちょっと割高ですが、110円で株を購入しました。
このように、買いたい人が増えていくと、どんどんと株価が上がっていきます。
1番最初に株を100円で買った人は、その直後に110円で売りに出せば、儲けることができますね。
逆に、売りたい人が増えていくと「安くてもいいから売りたい」ということになり、90円、80円とどんどん値段が下がっていくことになります。
この図式をみれば売買方法も分かるのではないでしょうか。
「とにかく買いたい」という人は「絶対買う注文(別名:成り行き注文)」を投げます。絶対売りたい人も同じように成り行きで「値段にかかわらず売る」という注文を投げることができます。
一方、最初の板に載っている人たちのように「90円ならば買ってもいいよ」と値段を指定して購入することもできます。
これを指値注文といいます。もちろん、金額を指定して売ることもできます。
こういった投資家の「売りたい」「買いたい」といった注文を受け付けて売買が成立することにより、株価は時々刻々と変化していくのです。
逆に言えば、売りたい人も買いたい人もあまりいないようなマイナーな企業の株は、値動きがあまりありません。
3.テクニカル分析とファンダメンタルズ分析
せっかく株式投資をするのですから、「安く買って高く売る」ことで儲けを出したいものですね。
この企業の株は値上がりするのだろうか、ということを調べる2つの考え方があります。
それがテクニカル分析とファンダメンタルズ分析です。
テクニカル分析とは、過去の株価の変動から、将来の値上がり(値下がり)を判断する手法です。
株価の予測とはやや異なり「買い時を判断する」と呼ばれることが多いです。
すなわち「株価が〇〇円になる」という予測をするのではなく「株価が上がる」や「下がる」といったトレンド(方向性)を判断する手法だということです。
多くの手法が提案されており、R言語やPythonなどを使えば簡単に計算できます。
一方のファンダメンタルズ分析は株価ではなく「企業の情報」を見る分析手法です。
経営がうまくいっているのかな、とか、新商品はちゃんと売れているのかな、とか企業の動向を分析します。
いい感じの経営をしている「価値の高い会社」に絞って投資をすることになります。
使い分けとしては
1.まずはファンダメンタルズ分析で投資先の企業を決める
2.いつ買っていつに売るのかをテクニカル分析で判断する
というのがセオリーです。
経営がうまくいっている企業の株を、安くなったタイミングで買って、高くなったら売る。
なんだか簡単に儲けられそうですね。
もちろん、世の中はそんなに甘くないのですが。
4.効率的市場仮説と予測不可能性
株式投資では、儲ける人もいれば逆に損をしてしまう人もいます。
分析のためのセオリーはすでに用意されているし、テクニカル指標の計算はできるし、企業情報だってWebで簡単に調べることができる。
それなのに、なぜ「損をする」ということがありうるのでしょうか。
テクニカル分析とファンダメンタルズ分析を含む、株式投資のテクニックがどのようにして「使い物にならなくなる」のか、その流れを説明します。
まず「スゴイ投資手法」を誰かが発見したとします。
ありえないですが、すごく単純に考えて「毎年2月1日に値上がりし、2月5日に値下がりする」という法則があったとしましょう。
この法則を使えば「1月31日に株を大量に買い、2月4日に一気に売る」ことで大儲けできますね。素晴らしいことです。
最初のうちはこの法則の通りに株価が変動し、うまく儲けることができたとします。
しかし、時がたつにつれて「毎年2月1日に値上がりし、2月5日に値下がりする」という法則がいろいろな人に知れ渡るようになってきました。
すると、投資家は皆が「1月31日に株価を買う」ことになります。
株は、買う人が多くなれば値上がりします。
すなわち、「1月31日に株価が上がる」ことになるのです。1月31日に買うと「値上がりした株を買ってしまった」というミスを犯すことになります。
また、同様に、投資家が寄ってたかって「2月4日に株を売る」ことをするため、2月4日に株価は下がります。
値上がり直後の1月31日に買い、値下がり直後の2月4日に売るという売買ルールを適用した投資家は大損をすることになるでしょう。
これが「絶対に儲かる法則が、使い物にならなくなる」理由です。
この話には続きがあります。
1月31日に値下がりするんだったら、1月30日には買っておけばいいじゃんか! と思いついた投資家がいたとしましょう。
しかし、残念ながら「同じ発想を多くの投資家も持っている」という事態に陥ります。
何が言いたいかというと、皆が「早めに株を買う」ことをするように変わるわけです。
すると、株価が上がるのが1月20日になるかもしれないし前年の12月になるかもしれません。
こうなるともはや予測は困難です。
多くの投資家が「自分にとって最善の行動をとる」ということを続けた結果、株価は予測ができなくなるほどに複雑な変動をするようになります。
これをさらに発展させて「投資家は株式の情報すべてを知っている」と考えます。
「私」が株価に対するスゴイ投資手法を知っているだけでなく、そのスゴイ投資手法を「ほかの人」も知っていると考えるのです。
このとき、株価は、より厳密な意味合いで予測不可能となります。
これを効率的市場仮説と呼びます。
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5.市場のゆがみと予測可能性
効率的市場仮説が正しいとしたら、私たちは株価の動きを予測することはできません。
テクニカル分析もファンダメンタルズ分析も何の役にも立たない。
サイコロを振ってテキトーに株の売買をしても、一所懸命に分析をしても、得られるお金は変わらないことになります。
それでも、株式投資が活発に行われているのはなぜでしょうか。
理由には大きく2つあると思います。
1つは、あまりよい状態ではないですが「効率的市場仮説のことを知らない(あるいは興味がない)投資家が多い」ことがあるかと思います。初心者向きの株の入門書において効率的市場仮説という名前が出てくることはまれだからです。
売買手数料がほしい証券会社さんや、プロのトレーダーの方もこの理論にはいい顔をしないでしょうから、あまり普及しません。
ただ、これだけが理由ではないと思っています。
2つ目が、効率的市場仮説の前提条件である「投資家は株式の情報すべてを知っている」が間違っているというものです。
最近はWebから情報をいくらでも手に入れることができるようになりましたが、すべての投資家が「株式のすべての情報を知っている」とみなすのには少々無理があります。
とすれば「ほかの人が知らない、私だけの投資手法」がまだ残っているかもしれませんね。
効率的でない、ゆがんだ市場であるならば、株価の予測は完全に不可能とは言い切れないのです。
ただ、ここで注意してほしいことは「ほかの人が知らない、私だけの投資手法」がWeb上に転がっていることはあり得ないということです。
これは、当サイトでも同じでして、このサイトに書かれている内容を真似したら大儲けできる、というロジックをここに書くつもりはありません。
「儲かる方法がありますよ」と言ってくる人がいたら、是非警戒してください。
そんなうまい話はありません。
それでも私は、株式投資をもっと多くの人に知ってもらいたいと思います。
なぜならば、時系列解析を勉強するにあたって、これほど素晴らしい題材がほかにないからです。
6.データサイエンスと株式投資
当サイト「Logics of Blue」は、データ分析や統計的意思決定理論を中心に取り上げているサイトです。
予測理論の考え方であれば『予測理論とpredictability』などの記事があり、時系列解析では『時系列解析_理論編』などの記事があります。
しかし、データ分析の理論を学ぶだけでは面白くありませんね。
データ分析に慣れ親しんだ方には株式投資の基礎知識を。
逆に、株式投資に慣れ親しんだ方には、データ分析という新たなジャンルを開拓していただければと思い、株式投資に関する一連の記事を書きました。
もちろん、勉強だけではなく、実際の運用にも役に立つ情報を提供できればと思っています。
テクニカル分析ではよく「ダマシ」という言葉が使われます。
○○という指標が出れば、株価が上がるという法則があるのに、裏切られてしまった、という状態を「ダマシ」と呼びます。
でも、ここで素朴な疑問が出てきますね。
今回がたまたまダマシだったのではなく、そもそも、この指標は「すでに使い物にならなくなっている指標」なのではないかという疑問です。
この疑問に答えるためには、過去のデータを洗い出して「この指標が役に立ったかどうか」を逐一調べていく必要があります。
人間が手作業でやるのは大変ですが、データ分析に明るければ、それほど難しい作業ではありません。
データ分析がわかれば、きっと投資はもっと楽しくなるし、逆に投資という目標があれば、データ分析を学ぶモチベーションにもなるかと思います。
データ分析と株式投資。両者を車輪の両輪として学んでいただければと思います。
※ 記載内容の使用は自己責任でお願いします
当サイトがもたらしたいかなる損失に対しても、その一切の責任を負いません。
参考文献
臆病者のための株入門 「投資家の仕事は損をすることだ」という名言が載っている新書です。 この本を読んだところで株の売買の仕方はわかりませんし、売り時買い時の判別もつきません。でも「株式投資とはどのようなゲームなのか」がよくわかる一冊です。 株で大儲けしたい、株で夢を見たいという方にはお勧めできませんが、株式投資のルールを知りたい方にはお勧めします。 |
ウォール街のランダム・ウォーカー 何回増刷されているのかわからない、超ロングセラーです。初版は1973年に出ていたはず。2017年6月現在、11版まで出ているようです。 「ランダムウォーカー」とあるように、効率的市場仮説を前提として「株価は予測できない」という発想ありきでの投資の方法論や精神論が書かれています。 Kindle版もあります。 |
めちゃくちゃ売れてる株の雑誌ZAiが作った「株」入門 薄い本で「株をどうやって売買すればいいのかを知りたい」という方はこのあたりを読まれればいいのかなと思います。 株式投資の本は、入れ替わりが激しく、本屋さんを見ていても平積みにされている本がコロコロ変わります。この本は、その中では比較的よくみる上に、私も買いましたが「さらっと読める」本であることには間違いないかと思います。 ただし、この手の入門書に多いのですが、効率的市場仮説については言及されていません。 |
その他、株式投資関連の本は移り変わりが激しいですので、Amazonの書籍のランキングで上位に来ている本を読んでみてもいいかと思います。
「お金が儲かるぜ!」と書いてある本は、どれもあまり内容は変わらないような気はしますが。
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