書籍「Rで学ぶ個体群生態学と統計モデリング」の感想
著者の岡村先生から「Rで学ぶ個体群生態学と統計モデリング」というご著書を、恐れ多くもご献本いただきました。
読むにはすぐに読んだのですが(とても勉強になりました)、その後、公私ともに忙しい日が続いたため、書評を書くのが遅れてしまったことをお詫びいたします。
当方が書籍の内容をすべて理解したとはいいがたいですが、本書の特徴を簡単にここに記載したいと思います。
■書籍の情報
詳細は共立出版さまのWebページを参照してください。一部、こちらの情報を引用させていただいています。
コードはすべて著者の先生のGitHubからダウンロードできます。
書誌情報
書名: Rで学ぶ個体群生態学と統計モデリング
著者: 岡村 寛 著
発売日: 2025/04/22
ISBN: 9784320058453
体裁: A5・364頁
定価: 6,600円 (本体6,000円 + 税10%)
目次
第1章 生態学のデータと統計学
第2章 生態学データの解析に使用する確率分布
第3章 線形回帰モデルとその拡張
第4章 線形回帰モデルのさらなる拡張
第5章 非線形回帰モデルと機械学習
第6章 個体数推定のための統計モデル
第7章 個体群動態モデル
第8章 シミュレーションと意思決定科学
付録A Template Model Builder(TMB)の簡単なガイド
全体を通した感想
対象読者のイメージ
中・上級者向けの書籍です。Rや統計学についての知識がある程度ある方が読むのをお勧めします。例えば、有名な「緑本」こと「データ解析のための統計モデリング入門」を一読された後など、より発展的な内容を学びたいという方にお勧めできます。
もちろん、初学者の方でも読む価値はあると思います。
タイトルには個体群生態学とありますが、生態学者以外の方でも読む価値があると思います。研究者のみならず、データサイエンティストやマーケターの方にとっても参考になると思います。
扱っている技術
管理人が気になったキーワード
- デルタ法
- ブートストラップ
- ラプラス近似
- TMB (Template Model Builder)
水産資源管理では、不確実性の評価を行うのがとても大事です。そのためかどうかはわかりませんが、デルタ法といったややマイナーな技術をかなり早い段階で導入し、推定量のばらつきを求める方法を解説しています。ブートストラップも不確実性を評価するための常とう手段であり、本書でも頻繁に出てきます。
ラプラス近似を用いた統計モデリングが、本書後半以降は特に頻繁に出てきます。ガウス=エルミート積分を導入した後、積分計算をもっと簡単にするためにラプラス近似を導入します。
ラプラス近似を、TMBライブラリを用いることで簡単に実装する方法についても詳細な解説があります。TMBは、今まで水産資源学者の方しか使っているのを見たことがなかったのですが、非常に有用なライブラリであり、応用範囲は広いと感じました。
TMBを一言でいうと、「統計モデルを推定するのが主な用途である、自動微分を行うライブラリ」になると思います。自動微分ができることで、関数の最大化や最小化といった計算を効率的に行えます。本書では、最尤法を行う際に頻繫に出てきます。
また、ラプラス近似を用いたモデル化を行う際、尤度を簡単に記述することができるという点でもTMBは便利です。TMBについては、本ブログでも、別の機会に取り上げたいと思います。
扱われている統計モデル
包含関係については気にせず、モデルの名前を列挙します。
(第3章~4章)
線形回帰モデル
一般化線形モデル(GLM)
一般化線形混合モデル(GLMM)
ゼロ過剰モデル
リッジ回帰・ラッソー回帰
(第5章)
ベルタランフィーの成長曲線
一般化加法モデル(GAM)
樹木モデル・バギング・ランダムフォレスト・アダブースト・勾配ブースティング
ニューラルネットワーク
サポートベクトルマシン
(第7章)
状態空間モデル
生態学・水産学関連の技術(第6章以降)
個体数の推定
最大持続生産量(MSY)の推定
水産資源管理、等々
共立出版様のWebページを見ると、ストーリーを重視して網羅性については気にしないと書かれてありましたが、バリエーション豊かな分析モデルが扱われています。
TMBを扱っている関係かと思いますが、階層モデルを最尤法で推定する方法については特に充実した記載があります。
第6章以降の内容については、データサイエンティストの方は専門外だと思われることもあるかと思います。しかし、現象を数理モデルで記述し、データに基づきモデルを推定、そしてモデルを用いてシミュレーションし、不確実性を評価したうえで意思決定を行うという一連の流れは、分野を問わず参考になる技術だと思います。
SNSでもつぶやきましたが、類書がないタイプの書籍です。読んでいると、知らないことがたくさん出てきて、勉強になりました。
確かに生態学の事例が多く載っていますが、Rや統計モデルに興味があり、ある程度の知識や経験がある方なら、意外と刺さる人も多いのではないかと思います。
Rを用いて一般化線形モデルを推定したことがあるという方は多くいらっしゃると思います。その次に進まれる際に、本書を読むのが個人的にはおすすめです。

