時系列解析の文献:2015年9月版

最終更新:2015年9月23日

ここでは、時系列解析を学ぶにあたって有用と思われる文献の紹介をします。
なお、画像はすべてAmazonへのリンクとなっております。

時系列解析は、統計学における、応用・発展の位置にあると思っています。一般化線形モデルなどが理解できたうえでこちらに進まれることをお勧めします。
なので、紹介する書籍もちょっとむずかしめのものが多いです。また、読まれる方のレベルもやや高いことを想定し、余計な解説は少なめにしてあります。

統計学の基礎から学びたいという方は、統計学初心者のための読書案内をご覧ください。

これは2015年9月現在のお勧めの本です。
気が向いたら新しいリストを作ろうと思います。

 

目次

1.時系列解析の入門書
2.Rによる時系列解析
3.状態空間モデルの入門書

 

1.時系列解析の入門書

時系列解析を学ぶ際、最初に読んでおくとよさそうな本を紹介します。

 

経済・ファイナンスデータの計量時系列分析

 

とりあえず、この本だけ読んでおけば、時系列解析の基礎がわかります。
時系列解析全般を扱った著名な本としては、北川先生の時系列解析入門も大変に有名です。

この本を選んだ理由は下記のとおりです
・経済学者の方が書いた本なので、実務に生かすコツなどが多く載っている
・数式も少なく、読みやすい

データ生成過程(DGP)といった「考え方の基礎」からARMAなど「基礎となる手法」を丁寧に解説している、掛け値なしの良書です。
個人的には、計量経済学者の先生が書いた時系列解析の本には、読みやすくて役に立つ、よいものが多いと思います。

扱われているモデルやトピックは下記の通りです
・時系列解析基礎
・ARMA
・VAR
・単位根検定
・見せかけの回帰と共和分
・GARCH
・状態変化を伴うモデル(TAR:閾値自己回帰モデル、など)

 

入門 季節調整―基礎知識の理解から「X‐12‐ARIMA」の活用法まで

 

こちらは、季節調整のみを解説した書籍です。
季節調整とは、時系列データから、周期的な季節変動を取り除くことです。そうすることで、私たちの興味のあるトレンドや不規則変動が見やすくなります。

「計量時系列分析」と比較すると、かなり内容の偏った本になります。
扱われている時系列モデルはARIMA(SARIMA)モデルのみです。
それでもこの本を推薦するのは、データ解析のプロセスがとても丁寧に載っているからです。ARIMAモデルを実データに適用したいという方にとっては、きっと役に立つ内容だと思います。
AICを使わないモデル選択の方法をとっていますが、そこは適宜やり方を変えればよいでしょう。X11という手法の解説は少なめで、この本だけでRで実装するのは少し難しそうです。手法をそのまま使えるという本ではありませんが、時系列データとの向き合い方を学ぶのによい本だと思います。

個人的に面白かったこととしては、複雑な時系列モデルを使わなくても、移動平均を発展させたやり方で、ほとんどの季節変動を抽出することができている点です。
Rを使えばむずかしい解析はたくさんできますが、実際に現場で使われている解析手法を学ぶことも、大事だと思います。
また、SARIMAモデルの解説方法も、図を使った少し独特なもので、とても参考になりました。

Kindle版もあるようです。
Amazonへのリンクを張っておきます
入門 季節調整―基礎知識の理解から「X‐12‐ARIMA」の活用法まで

 

2.Rによる時系列解析

Rを用いて時系列解析をするための本を紹介します。

 

現場ですぐ使える時系列データ分析 ~データサイエンティストのための基礎知識

 

ようやくRによる読みやすい時系列解析の入門書が出ました。
今までは、時系列解析だけをRで解説した本はとても少なく、あっても難しい本だったので、この書籍は貴重だと思います。

時系列解析の基礎~ARモデル~GARCHモデルと一通り学ぶことができます。
特に、著者らの専門であるファイナンス分野での適用例は読みごたえがありました。

ただし、この本も内容にはやや偏りがあるかと思いますので、載っていること、載っていないことを記しておきます。

この本に載っていること
・時系列解析の基礎理論
・自己回帰モデルの作成
・通常のGARCHモデルや、skew noemal分布を用いた発展的なGARCHモデルの解説
・単位根検定と共和分の調べ方
・共和分関係を用いた、ペアトレーディングの実装方法

載っていないこと
・検定、モデルの理論(例えば単位根検定の仕組みなど)
・ARIMAモデル(自己回帰モデルしか解説がありません)
・Rによる「ts」形式や「zoo」「xts」形式のデータの取り扱い方法

ARMAモデルに関しては、実務で使われることがないので省略したとの記載がありました。あくまでも「実務に使えればOK」という軽めの記述で解説している点には気を付けてください。

逆に言えば、書籍の目的が「実務に使えること」としっかり決まっているので、使いようによっては大変有用な本です。例えば「収益率」のデータを実務で扱うことが多いのですが、この取り扱いについて1節使って注意点を説明されている点など、間違いやすいところに紙数を割いてくれている本です。

とにかく時系列解析をしたいという方にはお勧めできます。
逆に、理論面に関しては、先の「計量時系列分析」や、次に紹介する「Rによる計量経済分析」を参照なさるのがよいかと思います。

ARIMAモデルに関しては、自動でモデル選択までしてくれるauto.arima関数の使いかたを、このサイトでしています。よろしければ、合わせてご参照ください。
時系列解析_理論編
時系列解析_実践編

 

Rによる計量経済分析 (シリーズ〈統計科学のプラクティス〉)

 

こちらは時系列解析の専門書ではありませんが、書籍の半分くらいは時系列解析に割かれています。
Rによる時系列解析の良い本がなかなか見当たらなかったころは、こちらを読んで勉強していました。

理論と実践のバランスが大変に良い本です。
このバランスはやはり経済学者の先生が書いた本ならではかと。
ただし、数式はちょっと多めで、理論面をこの本だけで理解するのは少々大変です。「計量時系列分析」で基礎を学んだあとでこちらにうつることをお勧めします。

ARIMAモデルなどの時系列モデルの解説だけでなく、時系列データに通常の回帰分析を適用する方法も書かれているのが大変便利。ダービンワトソン検定といった、残差の自己相関の検定は、ぜひ覚えておくとよいかと思います。
単位根検定は解説付きでRのコードが載っています。ADF検定だけでなくPP検定も載っています。

扱われているモデルやトピックは下記の通りです。
・R基礎
・クロスセクションデータへの回帰分析、重回帰分析
・不均一分散
・時系列データへの回帰分析
・時系列解析基礎~ARIMAモデル
・GARCHモデル
・VARモデル
・単位根検定と共和分
・パネル分析

「計量時系列分析」と内容がかぶっている個所が多いのがポイント。
両方を補完的に使うのがよろしいかと思います。

 

3.状態空間モデルの入門書

最後に、状態空間モデルの本を紹介します。

状態空間時系列分析入門

 

状態空間モデルを始めようと思ったら、まずはこの本を読まれることを強くお勧めします。
一番わかりやすくて、難易度の低い、状態空間モデルの本です。

とにかく「状態空間モデルとは何で、どのようにモデルを発展させていくのか」を知りたければ、この本1冊で事足ります。
逆に、モデルの推定方法などの記述は少なめです。

この本の計算例をRで実装されたウェブサイトを見つけました。
私自身、とても参考になりました。リンクを張っておきます。

Commandeur & Koopman「状態空間時系列分析入門」をRで再現する

 

カルマンフィルタの基礎

 

 

こちらは、正規線形状態空間モデルを推定するにあたって欠かせないカルマンフィルタについて書かれた本です。これも良書だと思います。こういう本がほしかったと思う人は多いのではないでしょうか。
数式が多くてびっくりしますが、これは式展開をはしょらないようにしているからです。わかりやすくするために数式を増やしている本なので、数式の種類(?)は少なめです。

数式に関しては「ここは飛ばしてもOKだよ」とか適宜コメントが入っているのがとてもありがたいです。
また、記号ではなく、実際に数値を当てはめて計算した結果も載せているので、検算ができます。
こういう配慮がとてもうれしかったです。

これを読めば、カルマンフィルタを実装するイメージがわきます。
MatLabでのプログラミング例が載っており、それをRに応用することも難しくありません。

カルマンフィルタって、行列の演算なんだなーと実感できる本です。
いままでカルマンフィルタがブラックボックスだった方に大変お勧めです。

拡張カルマンフィルタなどの進んだ話題に関しても一部載っています。

 

予測にいかす統計モデリングの基本―ベイズ統計入門から応用まで

 

こちらは、カルマンフィルタよりも進んだ方法である「粒子フィルタ」の解説が載っています。
また、図を使って状態空間モデルを解説しているので、状態空間モデルの構造がわかりやすくなっています。

予測~フィルタリング~スムージングの流れに関しても図で解説があります。
私はこの本を読んで、フィルタリングが何をやっているのかを知りました。

Kindle版もあるようです。
予測にいかす統計モデリングの基本

 

Rによるベイジアン動的線形モデル

 

状態空間モデルをRで実装する方法が書いてある本です。
dlmパッケージについて解説があります。
私は日本語版は読んだことがないのですが、英語版でもソースコードなどは大変参考になりました。
モデルの作り方、発展させ方がコードと合わせて載っているので、便利です。

dlmパッケージに関する簡単な解説は、このサイトでもしてあります。よろしければご参照ください。
dlmの使い方

 

 

 

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