水産資源を管理する枠組みについて、簡単に解説します。
身近なニュースを読みながら、水産資源管理の枠組み、そして漁業管理の難しさについて知って下さい。

サンマの漁獲上限引き下げのニュース

つい最近、サンマの漁獲上限が引き下げられました
はてなブックマークの記事で確認できます。

http://b.hatena.ne.jp/entry/www3.nhk.or.jp/news/html/20150527/k10010092871000.html

 

はてなブックマークのコメントを見ると、以下のような疑問を持つ人が多いように見受けられました。
・漁獲上限が引き下げられたように見えるが、その上限値は漁獲量よりも、とても多い
・これでは、漁獲上限を引き下げた意味がなく、サンマ資源が崩壊に進んでいくのではないか
・資源管理がうまく機能していないのではないか

昨今、水産資源の減少が問題となっています。
漁獲量が多すぎるのは確かにとても大きな問題です。

サンマも「獲り過ぎ」の状態にあるのでしょうか。

ここで重要となるのは「獲り過ぎ」とはどのような状態であるのかを理解することです。

でもその前に、水産資源を管理する枠組みについて説明しましょう。

 

資源管理と総漁獲可能量(Total Allowable Catch:TAC)

マアジ、マイワシ、サンマ、スケトウダラ、マサバ・ゴマサバ、ズワイガニ、スルメイカ。
コイツらの共通点をご存知ですか?

上記の魚たちは、漁獲量が多く、国民生活上で重要な漁獲対象種ということで「漁獲可能量(Total Allowable Catch:TAC)」が定められてるという共通点があります。
(なお、マサバ・ゴマサバは、分けて管理するのが大変なのでごっちゃにして管理しています)

TACよりも多くの量を漁獲することはできません。
このTACを適切に定めれば、(水産資源の全ての問題が解決されるわけではありませんが)獲り過ぎを防ぐことができるはずです。

このTACは、水産庁のWebサイトからも確認することができます。

サイトのリンクを張っておきます。下記サイトの「水産政策審議会の結果概要」のPDFから確認することができます。264000トンとの記載がありました。
水産庁 TAC設定関連情報

さて、次に私たちが考えるべきは「26万4千トン」が多すぎるのか少なすぎるのかということです。

 

資源管理と生物学的漁獲許容量(Allowable Biological Catch:ABC)

実は、研究機関において、「これ以上漁獲すると獲り過ぎになってしまう」という漁獲量が計算されています。
この値を生物学的漁獲許容量、略してABC(Allowable Biological Catch)と呼びます。

ABCに関しては、下記のサイトから確認することが可能です。
我が国周辺の水産資源の現状を知るために

2015年のABCを知りたければ平成26年度魚種別系群別資源評価をご参照ください。
サンマのリンクがあるので、それを見ればよいです。
ダイジェスト版へのリンクはこちら

ダイジェスト版のページをスクロールしてみると、少し下の方に2015年度ABCが載っています。
なんだかたくさんの種類があるのですが、一番少ない値を見ると「318千トン」と記載がありました。

生物学的に「これ以上取ると乱獲になってしまう値」であるABCは31万8千トンと言うことです。

この値がTACを上回っていることに注意してください。
ABCを上回る漁獲を「乱獲」と呼ぶのであれば、現状のTACは、サンマ資源において何の問題もないことを意味しています。
むしろ、TACが少なすぎるくらいです。

また、サンマの資源状態が「中位 横ばい」と評価されていることにも注目してください。
別に、サンマ資源は崩壊の危機にあるわけではないということです。

TACとABC

なぜTACとABCが一致しないのでしょうか。
これはいろいろの理由があるのですが、ざっくりと言うと「ABCに社会的要請を加味したモノ」がTACだからです。

ABCが少なくても、「多く漁獲したい」という要望があれば、TACは大きくなります。
もちろんこんなことをしていては魚資源が崩壊してしまって、大変なことになります。
なので、私たち市民は、TACがABCを上回らないように見張っていなければいけませんね。
本当にTACがABCを無視して過剰に設定されていた魚種もあり、現実問題としてとても重要です。

でも、ここで言いたいことは、乱獲の危険性ではありません。
ABCよりも少ない漁獲量にしてほしいという要請が漁業者側から上がっているというこの事実に、ぜひ注意してもらいたいと思います。

※ TACの設定理由は、下記のPDF資料に載っています。
平成27年漁期さんま、まさば及びごまさば、ずわいがに漁獲可能量(TAC)案について(資料2-4)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_tac/kanren/pdf/data2-4.pdf

 

獲り過ぎがもたらす2種類の問題

獲り過ぎの問題点は2つあります。

1つは、獲り過ぎることにより、魚資源が少なくなってしまうこと。
環境問題ともみなせますし、将来の漁獲量が少なくなるため、水産業というビジネスとしても大きな問題だとみなせます。
こちらはよく取りざたされるので、目にされた方も多いのではないかと思います。

そして2つ目は、獲り過ぎることにより、魚の1尾当たりの単価が下がってしまうということです。
俗にいう「豊漁貧乏」の問題です。
サンマの場合は、こちらがデカい。

私がとても好きな逸話があります。
(研究として面白いというだけで、漁師さんにとっては大問題だったということは付け加えておきます)
昔、サンマ漁船に「大きなサンマだけをより分ける装置」が積まれたことがあります。
小さなサンマは単価が安いので、海に捨てていたんですね。
もちろん、網にかかったサンマは死んでしまっています。小さなサンマは殺され損ということです。もったいないですね。そして、サンマをたくさん獲って捨てるというこの行為は、サンマ資源に対しても悪い影響を与えるのではないかと危惧されました。
結局、この装置の使用は時期を置かずに終わってしまいます。

実は、この装置を使うことをやめたのは、環境問題が原因ではありませんでした。
ビジネスとして成り立たなかったのです。

理由は単純。需要と供給の関係を知っていさえすれば、誰でもわかります。
需要に対して供給が過多になると、値段は下がる。これがわかれば十分。
魚体分離機を用いることで、大きなサンマが市場にあふれかえりました。その結果、大きなサンマの価値が下がり、逆に儲けが減ってしまったのです。

大きな魚を選んで、たくさん漁獲できれば、水産業は復活する。
この考えが妄想でしかないことがわかりますね。
サンマはこれで、失敗したのですから。

 

獲り過ぎと獲らなさすぎ

私は水産学部を卒業しておりまして、そのことを周囲に話すと、「魚が好きなの?」という質問の後には、たいてい次の2つの質問が来ます。
捕鯨の問題と、乱獲の問題です。

捕鯨に関しては本筋から離れるのでやめておきましょう。それに私はクジラの専門家ではありません。
面白いのは、2つ目の質問です。

私ごとになりますが、就活の際、最終面接でも同じ質問が来ました。
その最終面接の際、面接官にサンマの研究をしているというと、案の定「乱獲が問題だよね」と聞かれたのです。
「そんなことはありません。あなたはサンマのことを何も知らない」そう答えて面接官にケンカを売って落ちたのは、今となっては良い思い出です。
それくらい世の中では「乱獲」という言葉が有名になっているということですね。

でも、すべての魚が全く同じような資源状態であると考えるのはあまりにも粗雑すぎます。
資源が少なくて乱獲状態になっている魚もいれば、逆にたくさんいるのにそれを有効活用できない魚もいるのです。
後者に対しても、もっと目を向けていただきたいと思います。

獲り過ぎはダメです。でも、獲らなさ過ぎも、ダメ。
数が減っている魚もいるというのに、サンマという絶好の資源を放置するのは、もったいないですね。

 

答えがあるのにその答えを採用しない理由

水産関連の記事を見ていると、さも「こうすればうまくいく」という答えがすでに存在しているかのように思えてしまいます。
それは例えばノルウェーの漁業を真似すればよいというモノであったり、漁獲量を減らせばよいという意見であったりします。

でも、その「答え」に漁師さんは従いません。
その理由は「漁師さんが馬鹿だから」ですか? 日本の漁師さんみんなが馬鹿なのだと、本気でそう信じていますか?

漁師さんは馬鹿じゃない。
水産庁も、(カンペキではないにしろ)仕事はしてくれています。
それでも、答えに従わない。従えないんです。

その理由を、少しでいいので、考えてみてください。

ノルウェーの漁業を真似すればすべてがうまくいくと思っている人は、「日本の漁獲対象種がノルウェーよりも格段に多い」という事実を知るべきです。
すなわち、管理すべき対象魚種があまりに多すぎて、ノルウェーの真似をすることが大変に困難であるということです。

それでもなお、ノルウェーという理想を目指したいというのならば、本物の意見でしょう。
日本特有の問題点を洗い出して、解決し、ノルウェー流を目指そうという人はいます。その意見は、本物です。
でも、「ネットの記事に、ノルウェーの真似をすればいいと書いてあった。ノルウェーと違うことをしている日本は馬鹿だな」という意見は、ちょっと問題があると思います。

乱獲の問題も同じです。
全ての魚が乱獲の状態にあると勘違いして、何でもかんでも「漁獲量を減らすのが正解」と判断するのは、ちょっと単純すぎるのではないでしょうか。

例えばスケトウダラの日本海系群(青森から北海道の西よりにいるスケトウダラのことです)は、びっくりするくらい資源が少なくて、資源を回復させるためには厳しい漁獲制限が必要です。
こういう魚もいます。

でも、サンマのように「資源は多いけど、獲ると値崩れするから獲れない」魚もいます。
また、サンマの場合は、海岸から遠く離れた場所にいることも多く、あまり沖合に行き過ぎると燃料代の方が高くなるから獲りにいけないという問題もあります。
このような魚種に対して「乱獲は問題だ」と叫ぶことに意味はありません。

サンマの場合は「船に冷凍設備を積むことで、たくさん漁獲しすぎても保存できるようにする」とか「輸送船を用意して、沖合に出やすくする」とかいった工夫の方が求められています。

分かりやすい「答え」に飛びつくのではなく、水産のことをもっと知って、現状を理解したうえで、自分なりに答えを考える。
この記事がそのきっかけになればよいなと思います。

 

※ ABCの導出方法については、この記事では言及しませんでした。どうしても「漁獲係数:F」について説明をしなければならず、そのためには微分方程式の知識が必要不可欠だからです。
興味がある人は資源評価表において、ダイジェスト版ではない、詳細版をご覧になってください。ちょっと数式は多いですが……。あと、資源評価表には式の導出までは書かれていません。水産資源解析関連の教科書を読まれることをお勧めします。水産資源解析の勉強法をまとめたリンクはこちら

※ サンマ資源は豊富と書きましたが、資源評価表の詳細版では、調査船のデータから計算された資源量や親魚量が減少傾向とのことです。サンマ資源はあくまでも、「現状問題ない」ということです。「サンマだったらいくらでも獲ってよい」と言っているわけではないので注意してください。念のため。